今回は恐らく受験生の中でも苦手意識を持っている人が多いと思われる区分建物と敷地権について。
敷地権関係は色々覚えることあって複雑なのでいくつかトピックに分けてみようと思います。
僕の説明も厳密な解釈として正しいかと言われれば何とも言えないんですが、あくまで試験をパスするための大きなイメージとして理解の助けになればと思います。
それではまず、択一でこんな問題があるのを見たことがある人はいるのではないでしょうか?
敷地権の登記がなされていない区分建物について、新たに敷地権を生じたことを原因として建物の表題部の変更の登記をする場合において、その区分建物につき所有権の移転の仮登記がされているときは、その登記に付記によって建物のみに関する旨を記録する
うん、意味わかりませんよね。
こういう問題に対する説明を今回はします。
「建物のみに関する」とは何か?
まず、細かいことは置いておいて、次の順序を理解して下さい。
①既登記の区分建物について後から敷地権が生じた
②既に建物に所有権の登記以外の登記(所有権に関する仮登記、買い戻し特約、差押、一般の先取特権、質権又は抵当権に関する登記など)がある
③敷地権の目的たる土地に建物と同一の登記が
(先取特権や質権など、登記の目的、申請の受付の年月日及び受付番号並びに登記原因及びその日付が当該敷地権についてされたものと同一である場合に限る)
↓
ない場合:その登記に「建物のみに関する旨」が付記される(公示の不都合を回避するため)
ある場合:「建物のみに関する旨」は付記されず、敷地について登記されている一般の先取特権、質権又は抵当権が抹消される
順に説明します。
まず、既に登記されている区分建物について、もともと敷地権がなかったものの、後から敷地権が発生する場合があります。
↓
そして、その区分建物に所有権以外の登記(所有権に関する仮登記、買い戻し特約、差押、一般の先取特権、質権又は抵当権に関する登記等)があるかが確認されます。
要するに何らかの権利がついてるかの確認ですね。
↓
それがあった場合。次に敷地権の目的となる土地に区分建物と同一の登記があるかを確認します。
(先取特権や質権など、登記の目的、申請の受付の年月日及び受付番号並びに登記原因及びその日付が当該敷地権についてされたものと同一である場合に限る)
↓
で、次からが分岐点。
ない場合
区分建物には所有権以外の権利が付いてるけど、敷地権の目的となる土地には区分建物と同一のものがない。
その場合は、付記により「建物のみに関する旨」が記載されます。
イメージ図。
例えば区分建物には抵当権があったけど、敷地権の目的となる土地には同一の抵当権がなかった。
この場合、「もともと建物に付いていた抵当権は土地とは別のものですよ」ということを分かりやすくするために「建物のみに関する旨」が記録されるというわけ。
ある場合
では、敷地権の目的となる土地に建物と同一の抵当権があった場合は?
イメージ図。
例えば区分建物には抵当権があり、敷地権の目的となる土地にも同一の抵当権があった場合。
この場合は「建物のみに関する旨」は付記されず、敷地について登記されている一般の先取特権、質権又は抵当権が抹消されることになる。
要するに、建物も土地も同じ権利がついてるなら2つ付ける必要はないから1つにしましょう。というイメージ(あくまでイメージ)。
例外
ただしこれには例外があり、
敷地権が後から発生した場合でも建物にされた特別の先取特権と賃借権に関する登記は建物のみに関する登記を付す必要はない。
(建物と土地を共に目的にすることができないため)
イメージ図。
区分建物に特別の先取特権or賃借権が付いていた場合は、敷地権の目的となる土地と同一のものがない場合でも「建物のみに関する旨」を記録する必要はない。
要するに、わざわざ書かなくても建物だけに付いてる権利ということが明らかなので記録せんでえーよ、ということ。
特別の先取特権:土地のみ、建物のみを目的とする権利
賃借権:建物のみを目的とする権利
敷地権が転写される場合
ちなみにこれとは逆で、敷地権でなくなった場合は土地の登記記録に抹消された権利が転写される。(要するに戻る)
もともと敷地権が発生した時に建物と土地に同一の抵当権が付いていたら土地の抵当権が抹消される。というのは上で説明した通りですが、
今度は敷地権自体が無くなりました!というパターン。
この場合は、元の土地に付いてた権利が消滅したわけではないので、土地の登記記録に転写されますよということ。
敷地権が転写されない場合
こちらもまた例外があり、
土地の賃借権を敷地権として登記した区分建物において、賃借権が敷地権で無くなった場合、土地の登記記録の乙区に抵当権の登記は転写されない。
先に説明したとおり、賃借権は建物のみに付く権利なので土地に転写されることはない。
逆に、土地の所有権または地上権を敷地権として登記した区分建物において、所有権または地上権が敷地権で無くなった場合、土地の登記記録の乙区に抵当権の登記が転写される。
少しややこしくなるけど、まとめると
・賃借権:転写されない
・所有権:転写される
・地上権:転写される
と覚えよう。何にせよ問題文に「賃借権」と出てきたらちょっと注意が必要ということ。
例題
以上を踏まえて、過去の問題を一気に見てみましょう。
これに全部答えられればこのトピックは大体理解できてるかと。
敷地権の登記がなされていない区分建物について、新たに敷地権を生じたことを原因として建物の表題部の変更の登記をする場合において、その区分建物につき所有権の移転の仮登記がされているときは、その登記に付記によって建物のみに関する旨を記録するか?
→○
敷地権を登記した区分建物であって、建物のみに関する旨の付記のない抵当権の登記のあるものの合併の登記を申請する場合において、合併後の建物が区分建物でない建物となる時は登記官は区分建物の登記記録から土地の登記記録に抵当権の登記を転写しなければならないか?
→○
敷地権として登記した権利が敷地権でないものになったことによる区分建物表題部変更登記をする場合、抵当権の登記で建物のみに関する旨の付記のないものがあるときは、土地の登記記録の乙区に抵当権が転写されるか?
→○
敷地権を登記した建物で建物のみに関する旨の記録のない抵当権の登記があるものの滅失登記を申請する場合、敷地権の目的たる土地が数筆あるときは、申請情報を記載した書面に共同担保目録の添付を要するか?
→○
※無くなったのは建物だけなので、土地の権利は残る
敷地権として登記した権利が敷地権でない権利となったときは、建物のみに関する旨の付記のない建物につき登記された抵当権が敷地権であった権利に存続するので、土地の登記記録における権利の登記の整序手続において共同担保の旨を記録するため登記官が共同担保目録を作成するか?
→○
※敷地権として登記した権利が消滅したときはその権利に抵当権が存続することはないので共同担保目録が作成されることはない
賃借権を敷地権とする区分建物についてされた抵当権の設定の登記には、建物のみに関する旨の記録が付記されるか?
→×
敷地権付き区分建物のみを目的とする不動産工事の先取特権の保存の登記には、建物のみに関する旨の記録が付記されるか?
→×
土地の賃借権を敷地権として登記した区分建物において、賃借権が敷地権で無くなった場合、土地の登記記録の乙区に抵当権の登記が転写されるか?
→×
理解のコツ
少し分かりにくいトピックだとは思うのですが、自分としては下記のように理解してました。
建物のみに関する旨の記録のない抵当権の登記がある
↑問題文にこういう風に書かれてることが多いのでややこしいですよね。
要するに
「建物のみに関する旨の記録のない抵当権」=建物と土地の両方に抵当権が及んでいる
こういう風に変換すれば少し分かりやすくなると思います。
下記、その後の対応まとめ
建物が滅失した場合
→土地の権利は残るので共同担保目録の添付を要する
敷地権として登記した権利が敷地権でない権利となった場合
→権利自体は存続するので共同担保目録が作成される
敷地権として登記した権利が敷地権でないものになったことによる区分建物表題部変更登記
→土地の登記記録の乙区に抵当権が転写される
敷地権として登記した権利が消滅した場合
→共同担保目録は作成されない
合併後の建物が区分建物でない建物となる合併登記の申請の場合
→登記官は区分建物の登記記録から土地の登記記録に抵当権の登記を転写する
ということで、区分建物と敷地権についての説明でした!